茂上工芸
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●指物の成り立ち


 その歴史は、千数百年とも言われています。仏教伝来以降、建築や仏具の  技術が発達し、10〜12世紀には、宮廷や貴族、僧侶などに調度する品物 を入れる「筥(はこ)つくり」が盛んになりました。ここに『指物』の原 点があるとも言われています。室町時代の古文書には、『指物師』のこと が記されています。

 和家具として『指物』の生産が飛躍したのは、安土桃山時代から江戸初期 にかけての約150年間です。京都を中心とした「雅」な王朝文化や、千利 休をはじめとする茶道の「わび」「さび」の文化が、需要の拡大を生み、 さらにその工芸技術を高め、木工の礎を築きました。

 王朝文化や茶道とともに発達した『京指物』は、雅で華麗な装飾を好みますが、対して『江戸指物』は、武家や商人、歌舞伎役者に愛用されてきた生活調度品であり、「江戸前」と称される、木目や色合いなど木本来の良さを生かしたシンプルで粋な仕上がりを身上としています。
 金物も、取手部分など最小限度しか使いません。生漆の塗りと拭きを何度も繰り返す「拭きうるし仕上げ」という独特の塗装を施すのも、そのためです。 分業ではなく、一人の職人が手作業で最後まで責任を持って完成させるのも、『江戸指物』の特徴です。
 現在、『江戸指物』は、「伝産法」という国の「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」によって『伝統的工芸品』に指定されています。指定には厳しい手続きがあります。『茂上工芸』も「伝産法」の指定基準に則り、材料は国産木のみを使用し、技法工程もすべて法律で決められた条件を守って製作しています。
 安価な輸入木に頼らず、固く伝統を守り続ける『江戸指物』は、今では希少価値といえるかもしれません。


(参考資料:関保雄著『江戸指物』、江戸指物協同組合・小冊子『江戸指物』)